きずな国際特許事務所

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均等論について 特許権侵害の警告を受けた場合の対応


コラム

均等論について
特許権侵害の警告を受けた場合の対応

1.はじめに

 我々弁理士の日常業務の中で、特許権者から警告を受けたが、どのように対応すればよいか、との相談を受けるケースがあります。
特許権侵害と警告を受けた場合、当該特許権とまったく同一の製品、すなわちデッドコピーの製品を製造・販売していることは極めて稀で、通常は一部構成において差異があり、その構成の差異を認識した上、均等論、設計変更あるいは実質同一性を主張して侵害行為である、と主張するケースがほとんどであります。
 当然ながら、特許権者はこの警告書において製品の製造・販売の差し止め請求、損害賠償等を求めますが、被警告者は製品の安定供給ができなくなり、その対応に苦慮する場合があります。
 特許権とは、公開した代償として独占権である特許権が付与されるものでありますから、当業者は常時どのような権利が存在しているのか、チェックしていなければなりませんが、若し特許権を侵害している場合にはその侵害行為について過失が推定されますので(特許法第103条)、特許権の存在を知らなかった、という抗弁はできません。
特許権あるいは実用新案権の侵害事件に関する判例は枚挙にいとまがありませんが、特許権(実用新案権も含む)の技術的範囲の解釈基準は原則として特許法第70条に定められております。
 しかし、最高裁平成6年(オ)1083 ボールスプライン軸受け事件(以下「最高裁判決」という)において、文言上の解釈基準を超えて均等論を導入した画期的判決がで、この均等論を導入した理論構成は現在判例上確立した解釈基準となっております。
この判決は平成10年2月4日に言渡された古い判決ではありますが、この判決は上記のように現在判例上確立されており、この判決を無視して権利範囲を考慮することはできません。
 したがって、権利侵害の警告を受けた場合、この判例を考慮して対応しなければならず、そのため本稿において取り上げた次第であります。
なお、この最高裁判決においては、均等論を適用したとしても権利範囲に属さない、と判示しておりますことにご注目下さい。

2.権利範囲の解釈基準について

A.特許法第70条第1項には「特許発明の技術的範囲は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない」と定められており、この解釈基準が原則であります。
この解釈基準に基づき、我々弁理士は特許請求の範囲の構成要件を分節して、たとえば構成要件を「A+B+C+D+E」と文言上分節し、相手方製品(以下「イ号製品」という)が特許発明のこれら構成要件全てを充足しているか、どうか判断し、充足している判断された場合には特許権の技術的範囲に属する判断し、この構成要件説は裁判所においても採用されている通説・判例であります。
通常この構成要件説は文言上全て充足しているや、否やについて判断する判断基準で、文言侵害と称されておりますが、実際の事件においてはこの文言侵害と称される事件はほとんどなく、構成要件の一部を設計変更しているのが普通であります。

B.均等論を適用した場合の権利範囲の解釈基準について

  最高裁判決(ボールスプライン軸受け事件)は均等論を導入して判断された我国初めての画期的判決であり、この均等論は法律上明文はなく、原則文言侵害論の例外として解されております。

B−1 均等論を導入した理由について、最高裁判決は概略下記のように判示しております。

  1. 特許出願時の際に将来のあらゆる侵害形態を予想して明細書の特許請求範囲を記載することは極めて困難であり、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差し止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明の意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にももとる結果となる。
    この最高裁判決において、将来のあらゆる侵害形態を予想して出願時に特許請求の範囲を記載することは実務上極めて困難である、との指摘は実務を理解した判決と評価されます。
  2. 特許発明の実質的価値は第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び、第三者はこれを予期すべきものと解するのが相当である。
  3. 特許発明の特許出願時において公知であった技術及び当業者がこれから右出願時に容易に推考することができた技術については、そもそも何人も特許を受けることができなかったはずのものであるから(特許法第29条参照)、特許発明の技術的範囲に属するものということができない。
    すなわち、出願前公知技術は何人も実施できる自由技術であることを明確にしたものです。
  4. 特許出願時において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど、特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属さないことを承認するか、又は外形上そのように解されるような行動をとったものについて、特許権者がこれと反するような主張をすることは、禁反言の法理に照らし許されない。
    出願時の主張と事件発生後の主張が齟齬することが許されないことは当然であります

B−2 最高裁判決は、均等論の適用については概略下記のような要件を充足しなければならないと判示しています。

  1. 異なる部分が特許発明の本質的部分でないこと。すなわち、特許発明とイ号製品とが本質的な部分において異なる場合には「均等論」適用の余地がありません。
  2. 異なる部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであること(置換可能性)。すなわち、特許発明とイ号製品とを対比して同一の作用効果が得られない場合には「均等論」の適用はありません。
  3. 置き換えることが、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有するもの(当業者)が、対象製品等の製造時の時点において容易に想到することができたものであること(置換容易性)。すなわち、置き換えることが侵害時において容易に想到できない場合には「均等論」の適用はありません。この場合容易想到有りか、否かは出願時ではなく侵害時であることを明確にしたのは、この最高裁判決が初めてですのでご留意下さい。
  4. 対象製品等が、特許発明の特許出願手続きおける公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものものではないこと。すなわち、イ号製品が特許出願時において容易に想到しえたものである場合にはそもそも自由技術であって、特許発明の技術的範囲には属しません。
  5. 対象製品等が特許発明の特許発明の出願時において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。すなわち、出願時において意識的に権利範囲から除外したにも関わらず、その後イ号製品が権利範囲に属するとの主張は禁反言に違反し、許されないと、判示したものであります(棒線は筆者)。

3.均等論を主張して特許権侵害と警告された場合の対応について

3−1 先ず、文言侵害論に従ってイ号製品が特許発明の構成要件を全て充足しているや、否やについて判断し、若し仮にイ号製品が特許発明の構成要件を全て充足している場合には侵害と判断せざるを得ず、その場合には特許権者との交渉あるいは特許発明の無効化を考えなければなりません。

3−2 しかし、特許発明の構成要件「A+B+C+D+E」のうち、イ号製品がこの構成要件中「B」の構成要件を具備してなく、「B’」の構成を採用している場合に均等論が出てまいります。すなわち、構成要件「B」を「B’」の構成に置換した場合に均等か、どうかが争われます。
 特許権者が均等論を主張して特許発明の技術的範囲に属すると主張するためには、異なる部分が特許発明の本質的部分でないこと、置換可能性を有すること及び置換容易性を立証しなければなりません。
 ここで、「特許発明の本質的部分」とは「特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明の課題解決手段を基礎付ける特徴的な部分、言い換えれば、右部分が他の構成に置き換えるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるもの」と解されています。
 一方、被警告人はイ号製品が特許出願時において、容易に想到しえたものであること、出願時において意識的に権利範囲から除外したものであることを主張・立証しなければなりません。

3−3 そもそも特許権は出願時を基準として新規性、進歩性が判断されるものであるから(特許法第29条第1項、第2項)、新規性、進歩性を具備しない発明は本来特許権を付与されることなく、何人も実施可能な自由技術であることは当然であります。
 しかし、特許権者から構成要件「B」を「B’」に置換することは「均等」に属するものと主張された場合には下記の対応が必要になります。

(1)出願前公知技術が自由技術であることは上記の通りでありますが、「B’」の構成を採用することは出願前の公知技術から容易になしえたものであることを特許権者において主張・立証しなければなりません。
 そのため、出願前の公知技術を国内文献及び外国文献等から調査することが不可欠であります。
 弊所では、昨年特許権者として差し止め請求および損害賠償を求めて東京地裁に事件を提起したことがあります。弊所は原告の立場ではありますが、クライアントには出願前の公知技術を徹底的に調査するよう依頼し、その調査の結果類似技術は無いとの結論を得て自信を持って事件を提起しました。しかし、被告から裁判所に提出された公知技術は外国文献で、「B’」の構成らしきものが開示されておりました。弊所クライアントは国内文献には十分調査したものと思われますが、外国文献までは調査に至らなかった次第であります。この事件は残念ながら特許庁及び知財高裁で敗訴し、現在敗訴が確定しております。
 翻って、言葉の問題、コストの問題等から外国文献までの調査はなかなか困難とは思いますが、事件の勝訴を勝ち取るためには外国文献の調査は是非必要かと思います。事件の勝敗は証拠次第ということもありますので、重要な事件の場合には外国文献の調査を是非していただきたいと思います。

(2)特許権侵害事件の場合、出願時の経過を参酌することは不可欠です。
出願の経過は何人も閲覧又はコピーを請求することはできますが、その際には願書に最初に添付した明細書・図面・拒絶理由通知書・意見書・補正書・拒絶査定不服審判請求書等を取り寄せることが必要です。なお、現在は事務所内にてインターネットを通じて関係書類を閲覧できるようになりましたので、随分便利です。
 通常特許出願した場合、一発で特許になることはありません。必ず一度は拒絶理由通知を受け、その理由に示されている引用文献記載の技術と出願発明とを対比して、意見書・補正書を提出し特許査定を受けることができます。
 その場合、引用文献記載の発明と出願発明とを差別化するため、権利範囲を減縮せざるを得ないケースが多く、構成要件を付加する、温度・湿度等について限定するなどの手段を通じて、技術的範囲を減縮致します。その場合、気を付けなければならないことは、当初特許請求の範囲の記載では、第1実施形態〜第5実施形態のものまで含まれるような記載であっても、引用文献記載の技術と差別化するため、特許請求の範囲の記載を補正し、補正の結果第5実施形態のもののみを残して特許を受けることがあります。
 その際、出願人は第1実施形態〜第4実施形態の明細書及び図面を残して、特許請求の範囲のみ補正する場合があります。
すなわち、出願人は第1実施形態〜第4実施形態の発明は意識的放棄したものですから、それら実施形態の発明は特許発明の技術的範囲に属さず、仮に特許権者が含まれる、と主張するならば禁反言の原則に従いそのような主張は許されません。
 また、実務上よくあるケースは温度・湿度等を数値限定することですが、その数値限定によって意見書・補正書の提出により特許化されたならば、その数値限定外の範囲で実施することは禁反言の原則に従い、技術的範囲に属しません。
 以上のケースはその一例ですが、権利範囲の解釈に当たっては出願時に出願人がどのように主張・反論して特許になったのか極めて重要なことですので、出願経過は必ずチェックすることが肝要です。

(3)特許権者は警告書段階で、通常構成要件「B」を「B’」に置き換えることは「本質的部分でない」「置換可能性あり」「置換容易性あり」と主張してきます。しかし、この「本質的部分でないこと」「置換可能性」「置換容易性」は特許権者が主張・立証しなければならない事項ですので、被警告人はそのような主張に対しては、きっぱりと否認しなければなりません

4.まとめ

 上記の最高裁判決は「均等論」を真正面から取り上げた判決で、私ども弁理士は今後の判例の行方を注目しております。
  また、特許権者は「均等論」を主張することなく、「設計変更に過ぎない」「実質同一である」と主張する場合もありますが、基本的には「均等論」の論理で対応できるものと思います。
  事件の勝敗は証拠次第ということもありますので、証拠の収集には全力を挙げていただきたいと思います。
  また、この「均等論」は米国では1853年のWinans事件から連邦最高裁判所により導入されており、我国においても「均等論」を正面から導入した判決が今後でてくるものと思います。

                                                 

以上

参考文献

  1. 特許法概説(第11版)       吉藤幸朔著 熊谷健一補訂 蒲L斐閣発行
  2. 牛木理一著 均等論と自由技術    ボールスプライン軸受事件最高裁判決に思う インターネットより
  3. 泉 克文著 米国における均等論   パテント2002 Vol.55 No12
  4. 田村善之著 均等論における本質的部分の要件の意義(1) 均等論は「真の発明を救済する制度か?           知的財産法政策学研究 Vol 21(2006)
  5. 古谷国際特許事務所ニューレター4号 インターネットより
(担当  弁理士 和田 成則)